給与アップも…実質賃金はマイナス “賃上げ”求める声も

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給与アップも…実質賃金はマイナス “賃上げ”求める声も

3年連続のマイナス

3年連続のマイナス

「みなさんは、賃上げの実感はありますか?」


去年1年間の働く人1人当たりの現金給与の総額は33年ぶりの高い伸びでしたが、物価の上昇には追いつかず、実質賃金はおととしと比べて0.2%減少し3年連続のマイナスとなりました。


こうした中、パートやアルバイトの人たちが一緒になって賃上げを訴える「非正規春闘」の取り組みが始まりました。



去年の実質賃金 3年連続マイナス

厚生労働省は、従業員5人以上の事業所3万余りを対象に行う「毎月勤労統計調査」について、5日、去年1年分の速報値を公表しました。


それによりますと、基本給や残業代、ボーナスなどをあわせた働く人1人当たりの現金給与の総額は月の平均で34万8182円となり、おととしと比べて2.9%増え、33年ぶりの高い伸び率でした。


中でもボーナスなどの「特別に支払われた給与」が6万6192円と6.9%の増加となり、比較できる2001年以降、最も高い伸び率となりました。


現金給与の総額の内訳では

▽フルタイムが45万3445円

▽パートタイムが11万1842円と、

いずれも統計を取り始めた1993年以降で最も高くなりました。


しかし、物価の上昇率が3.2%と高い水準で、物価の変動を反映した実質賃金は、おととしと比べて0.2%減少しました。

実質賃金が前の年を下回るのは3年連続です。


また、去年12月分の速報値も公表され、現金給与の総額は前の年の同じ月と比べて4.8%増え、実質賃金も0.6%増えました。

実質賃金は去年11月の速報値ではマイナスでしたが、その後の確定値で0.5%の増加となり、これで2か月連続のプラスです。


厚生労働省は「春闘の影響で賃金の高い伸びは続いているが物価が高止まりしていて、実質賃金はマイナスが3年連続となった。

ただ、直近2か月で見るとプラスとなっているので、今後も賃金の伸びや物価の動向を注視したい」とコメントしています。

3年連続のマイナス


非正規雇用の平均賃金 正規雇用の約67%

実質賃金がマイナスとなるなか、特に生活への影響が大きいのが非正規雇用の人たちです。


厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によりますと、雇用形態の違いによる月の平均賃金の差は、統計を取り始めた2005年には正規雇用が31万8500円に対して、非正規雇用は、そのおよそ60%にあたる19万1400円でした。


その後、縮小傾向が続き、おととしは正規雇用が33万6300円に対して、非正規雇用は22万6600円でしたが、正規雇用のおよそ67%にとどまっています。


厚生労働省は、男女の賃金格差が問題となるなか非正規雇用のうちの7割近くを占める女性の賃上げが進んできたことや、大幅な最低賃金の引き上げなどで正規雇用と非正規雇用の賃金格差も縮まってきたとみられるとしています。



“非正規雇用者の声を聞け” 非正規春闘始まる

こうした中、勤務先が異なるパートやアルバイトの人たちが一緒になって賃上げを訴える「非正規春闘」の取り組みがことしも始まりました。


国内の非正規雇用で働く人は去年、国内で2100万人余りと、労働者全体の36.8%を占めています。5日はおよそ50人が東京 千代田区の経団連の前に集まり「低賃金や低処遇で働く非正規労働者の声を聞け」などと訴えました。


「非正規春闘」はおととしに始まった取り組みで、ことしで3年目。

ことしは個人で加入できる28の労働組合が集まり、非正規雇用で働くおよそ4万人がそれぞれの勤務先に物価高などで生活が苦しく正規雇用の人たちとの格差の是正が必要だとして、一律10%以上の賃上げを要求する方針です。


去年は20の労働組合でおよそ4万人が参加し、一律10%以上の賃上げを求めて117社に要求書を提出しました。

交渉の結果、70社で賃上げが実現し、平均の賃上げ率はおよそ3%から4%でしたが、残りの47社からは賃上げの回答が得られませんでした。


「非正規春闘」の実行委員会では物価高のなか賃金の引き上げが追いつかず生活が苦しいことや、正規雇用との格差の是正と待遇の改善などを訴え、状況に応じてストライキを行うなどして交渉を進めていく方針です。


実行委員会に参加する団体の1つ「首都圏青年ユニオン」の尾林哲矢執行委員長は次のように話しています。


尾林哲矢 執行委員長

「賃金の底上げは最も重要な社会的課題です。

非正規春闘は職場に組合がなくても1人からでも始められるので横のつながりを持って取り組み、生活の実態を踏まえた仕事に見合う大幅な賃上げを求めたい」。


“生活レベルは悪化 老後も不安”

出版関連の物流倉庫で非正規労働者として働く、川邉隆さん(57)も「非正規春闘」を通して賃上げを求める1人です。


都内で両親と妻の4人で暮らす川邉さんは、高校を卒業したあと家業を手伝っていましたが、20年ほど前、今の会社でアルバイトとして働き始めました。


現在の時給は東京都の最低賃金と同じ1163円で1日7時間ほど、週に5日働き、月給は平均でおよそ12万円です。

この数年の時給のアップは最低賃金の見直しに伴う引き上げ分だけです。


そこで、おととしから「非正規春闘」に参加し、賃上げを求めて要求書を提出しましたが、会社側は人手が足りていて契約以上の賃金を支払うことはできないなどと回答したということです。


川邉さんは、現在、生活のためにダブルワークをしていて、倉庫での勤務を終えた後、菓子工場で働いて家計を支えています。


エアコンをやめて灯油の使用量がわかるファンヒータにするなどして光熱費の節約に努めています。

食費を減らそうと、買い物前にインターネットで情報を集めて買うようにしていますが、タイムセールでより値段の安い食料品が見つかれば夕食の献立を変えることもよくあるということです。


妻との旅行が楽しみですが、宿泊旅行は4年前に静岡県の伊豆に出かけたのが最後です。


川邉さんは早朝に出かけて深夜近くに帰宅する働き方が今後もできるのか、老後も暮らしていけるのか不安に感じていて、ことしも大幅な賃上げを訴えることにしています。

「趣味に使うお金もなく、生きるためにかかる費用だけで暮らしていますが、それも節約しながらなので生活のレベルは悪化するばかりです。今の働き方は年齢を重ねると体力的にも難しくなると思うので老後への蓄えも考えると不安です。会社に賃上げをしてもらい少しでも家族と過ごす時間を増やしたいです」


取り組みの広がりは…

「非正規春闘」の取り組みの広がりについて、日本の賃金動向に詳しい大和総研のシニアエコノミスト神田慶司さんは次のように指摘します。


神田慶司さん

「正規だけでなく非正規雇用も含めた幅広い賃上げが消費拡大にもつながり日本経済全体にとっても大きな意義がある。企業に対して弱い立場の非正規労働者が賃上げを求めやすくなっていることは望ましく、より声を発することで賃上げの流れを強くする必要性は大きい」


配信元:NHK NEWS WEB

配信日:2025年2月5日


今回のこの報道に関して


賃上げの動きが広がる中、実質賃金が依然としてマイナスという現実は、多くの労働者にとって厳しい状況を示しています。

特に、物価の上昇が続く中での賃金の伸び悩みは、生活の負担をさらに大きくし、賃上げの必要性をより強く浮き彫りにしています。


こうした中、「非正規春闘」の取り組みは、非正規雇用者の賃金格差や生活の苦しさを社会に訴える重要な動きといえます。

非正規労働者は国内で2,100万人を超え、労働市場全体の約37%を占めるにもかかわらず、正規雇用と比べると待遇面での格差が依然として大きい状況です。

この格差が是正されなければ、日本の労働環境全体の健全な成長は難しいでしょう。


また、賃金の底上げが進まない限り、消費の拡大も期待できず、日本経済の持続的な成長にとってもマイナスとなります。

企業が単に利益を確保するだけでなく、適正な賃金を支払うことで、労働者の生活の安定を支え、最終的には経済全体の好循環を生むことが求められています。


しかし、賃上げを求める声があがっても、企業側が対応しない現実もあります。

最低賃金の引き上げがなければ賃金が上がらないという状況に、多くの非正規労働者が直面しています。

ダブルワークをしながら生活費を切り詰め、老後への不安を抱えながら働き続ける労働者の声は、社会全体で真剣に受け止めるべき課題です。


賃上げは単なる個々の労働者の問題ではなく、日本社会全体の安定と発展に直結する重要なテーマです。

企業、政府、労働団体が連携し、より多くの人々が安心して生活できる労働環境の整備に向けた具体的な取り組みが求められています。



中小企業の賃上げ余力がない現状について


賃上げの必要性が強調される一方で、中小企業にとってはその実現が容易ではないのが現実です。

大企業が人材確保のために積極的な賃上げを行う中で、中小企業は原材料費やエネルギーコストの上昇、取引先からの価格転嫁の難しさなど、厳しい経営環境に置かれています。

そのため、賃上げに踏み切りたくても、余力がない企業が多いのが現状です。


特に、労働集約型の業種では人件費の割合が高く、賃金を引き上げると経営の安定性が損なわれかねません。

また、最低賃金の上昇が続く中で、それに対応するための賃上げはやむを得ないものの、それ以上の昇給が難しい企業も少なくありません。


こうした状況を踏まえると、中小企業の賃上げを促進するためには、政府の支援策が不可欠です。


例えば、

・社会保険料の負担軽減

・賃上げを行った企業への税制優遇

・価格転嫁の適正化を促す法整備

・生産性向上のための補助金や技術支援

といった施策が必要になるでしょう。


一方で、労働者側も賃上げだけを求めるのではなく、労働環境の改善やスキル向上による生産性向上の取り組みを進めることが重要です。

中小企業にとっても、賃上げを可能にするための経営力強化が求められており、単なるコスト負担の増加とならないよう、業界全体での支援策が必要になるでしょう。


最終的には、企業の規模を問わず、持続可能な形での賃上げを実現する仕組みづくりが求められています。

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